2026年6月19日

はじめに
夏から秋にかけて全国的に発生報告が増加する食中毒。その中でも、特に強い警戒が必要なのが「腸管出血性大腸菌O157」です。ただの腹痛や下痢だろうと考えていると、命に関わる重篤な合併症を引き起こすことがあります。今回は、医療の視点からO157の危険性と、万が一感染が疑われる場合の正しい初期対応についてお話します。
O157が特に危険とされる理由
少ない菌数でも感染する強い感染力
一般的な食中毒菌であるサルモネラ菌やカンピロバクターは、発症までに数十万〜数百万個以上の菌量が必要とされています。一方でO157は胃酸に非常に強く、わずか50〜100個程度の菌量でも胃を通過して大腸に到達し、感染・増殖を始めます。そのため、食材へのわずかな付着や感染者の手を介した二次感染も起こりやすいことが特徴です。
ベロ毒素による全身への影響
O157は大腸内で増殖する際に「ベロ毒素(シガ毒素)」という非常に強力な毒素を産生します。この毒素は大腸の粘膜を破壊して激しい出血や血便を引き起こすだけでなく、血流に乗って全身へ運ばれ、さまざまな臓器に深刻な障害を与える可能性があります。
重篤な合併症「HUS(溶血性尿毒症症候群)」
O157感染者の一部、特に乳幼児や高齢者では、ベロ毒素によって血管の内皮細胞が障害され、「溶血性尿毒症症候群(HUS)」を発症することがあります。毒素により赤血球が破壊される溶血性貧血や、腎臓の細い血管が詰まることによる急性腎不全を引き起こし、重症例では人工透析が必要になる場合もあります。また、意識障害やけいれんを伴う脳症へ進行することもあります。下痢が始まってから数日から2週間以内に発症することが多く、迅速な医療対応が必要です。
下痢止め薬を使用してはいけない理由
激しい下痢に対して市販の下痢止め薬を服用したくなるかもしれませんが、O157感染が疑われる場合は自己判断での服用は避ける必要があります。下痢は体内の有害な菌や毒素を排出しようとする防御反応です。薬で腸の動きを抑えると、ベロ毒素が腸内に長時間とどまり、より多く吸収されることで重症化やHUS発症のリスクが高まる可能性があります。下痢が強い場合は、スポーツドリンクや経口補水液などでこまめに水分補給を行い、脱水を防ぐことが重要です。
受診の目安
注意すべき症状
O157の潜伏期間は3〜8日と比較的長く、数日前に食べた食品が原因となることがあります。激しい腹痛、水のような激しい下痢、血便、発熱を伴う下痢などの症状がみられる場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
受診時に伝えていただきたいこと
適切な診断や便培養検査を迅速に行うため、症状が始まった時期、過去1週間以内の生肉や加熱不十分な肉の摂取歴、同居家族や身近な方に同様の症状があるかどうかを医師へお伝えください。
まとめ
O157は、適切な抗菌薬の使用や全身管理など、医療機関での早期対応が重症化を防ぐ重要なポイントです。ただの胃腸炎と自己判断せず、特に血便や強い腹痛がある場合は、迷わず医療機関を受診してください。
監修者情報

片桐光浩
かたぎりクリニック 院長医学博士、日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医、日本がん治療認定機構がん治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、マンモグラフィ読影認定医